柳　宗悦、衣笠一省編「妙好人　因幡の源左」

百華苑　１９６０年初版　本書は２００４年改訂版　入手困難な稀少書

新品同の極美品。

妙好人中の妙好人といわれる足利源左の生き方は、日本人らしいやさしさ、思いやり、憐れみ深さに満ちている。そのやさしさは、他人への思いやりとなって表われる。源左は、信心に徹し、凡夫に徹し、生業に励み、そして貧しい中に豊かな人間性を保ち、なんとも美しい、仏教的生き方を終生貫いた稀有の妙好人である。源左を知るにつけて、日本人らしいしっとりした情性を感じ、人はここまでやさしくなれるのかと心温まる思いがする。そして殺伐、混沌とした現代に生きる私たちに、源左の生き方は大いなる潤いを与えるに違いない。
　妙好人とは浄土真宗の篤信の信者を敬称してかく呼ばわる。源左は文字も書けない貧しい田舎の百姓である。しかし、教義を究めた高僧も遠く及ばないほどのたいそうな信心を掴んでおり、一大安心の境地の只中にいる。親鸞や蓮如の教えは妙好人一人を得ることにより、生命を吹き込まれ、実に生き生きして、その教えが千鈞の重みを得たと云われる。
　信者でもない逸平にとっては、妙好人の信心物語に感心したというより、源左が全身全霊で教えを受けとめ、その結果、生業はもとより、日常生活の諸事全般にわたり、まことに美しい、ほのぼのとした心情を披瀝する、そのことにまず胸を打たれる。信心の結果現れる彼の姿に感動を覚え、尊いものを感じるのである。
　宗教的なるものに漠然と魅かれてはいても、なかなか信心にまで至らぬ人にとって、源左の生き様は興味深いだろうし、何らかの光明をもたらすのではないか。いや、そんな大それたことではなく、源左の美しい人柄、やさしさ、そしてほんわりした日本人の存在を知るだけでも、心温まると思う。
　源左の純心で素朴でひたむきな生き方は、人間の行き着ける最も高い姿を示している。山陰のひなびた村に、こんなにも個性豊かな、ひたむきな生を貫いた美しい日本人が、昭和の時代まで存在していた、その驚きと感動を、紀行文とともに本書に込めた。
(浅沼義則「妙好人紀行－－源左・才市・仲造・善太郎・道宗・みすゞ」
２０２２年)